
この記事の要点
- 介護施設で月に3〜4人の新規入居が重なると、情報がごちゃごちゃして、誤薬や連絡漏れが起きやすくなります。
- 原因は「申送りノートが3冊並走している」「同じ情報を二重管理している」「時系列だけで情報を貯めている」の3つです。
- 解決のカギは、情報を「時系列/属性/重要度」の3つの軸で並べ直すこと。それから紙→Excel→クラウドの順番で、ゆっくり移すのが安全です。
- いきなりクラウド介護ソフトに飛びつくと、現場が使いこなせず、Excelに戻る現場をよく見ました。順番が大事です。
- 外部の手を3ヶ月だけ借りて、仕組み化してから手放すのが、私の経験では一番ラクな進め方です。
ある介護施設の管理者さんから、こんな相談を受けたことがあります。「新規入居が今月4人重なって、申し送りが追いつかないんです」。気持ち、よく分かります。私が外部から業務改善を支援してきた現場でも、複数の新規受入が同時に走るときが、いちばん事故が起きやすい場面でした。
私はスガヤンと申します。介護ソフトの開発会社の人間ではありません。外部から、現場に合わせて Excel と VBA で仕組みを作り直してきた立場です。だから、ぴかぴかのクラウドソフトを売る立場でもありません。今回の記事では、その立場から「複数並行の新規受入」をどう仕組み化していくかを、現場で見てきたことそのままに整理します。
大手の介護メディアを見ると、「入居者の家族向け」の説明か、「申し送りのコツ」か、「グループホームの開設マニュアル」が中心です。月に何件もの新規受入が並行する状況で、管理者がどう動くかという記事は、意外と見かけません。だから、私の現場経験からの目線で書きます。
新規受入オペで効いた 4 つの仕掛け(先にお伝えします)

新規受入で起きる「あるある」3例とは?

結論:いちばんよく起きるのは「誤薬」「連絡漏れ」「申し送りスキップ」の3つです。どれも、現場の人が悪いから起きるのではなく、情報が一気に増えたときに、仕組みが追いつかないから起きます。
たとえばこんなイメージです。家にお盆休みで、親戚が4家族同時に泊まりに来たとします。誰がアレルギーか、誰が薬を飲んでいるか、布団は何枚いるか。一人ずつだったら頭に入る情報も、4人重なるとごちゃっとなる。介護施設で起きていることも、これに近いです。
私が現場で見てきた典型的な3つを、もう少し具体的に書きます。
あるある①誤薬: 新しい入居者さんが、前の施設で「朝食後に飲んでいた薬」を、こちらでは「昼食後」と勘違いされて出される。職員さんが悪いのではなく、引き継ぎ書類のどこに書いてあるかが、見つけにくいだけです。
あるある②連絡漏れ: ご家族から「来週、付き添いで通院です」と聞いていたのに、その伝達が職員さんまで届かない。施設長さんの机の上のメモが、そのまま埋もれてしまうことが多いです。
あるある③申し送りスキップ: シフトの切り替わるタイミングで「あとで話せばいい」と思っていた一言が、結局誰にも伝わらない。次の入居者の対応に追われていると、こうなりがちです。
こうした事例は、介護現場の業務改善ニーズとして、外部の調査でも長く指摘されています。介護労働安定センターが厚生労働省の指針のもとに毎年行っている『介護労働実態調査』でも、職員の業務量や記録の手間が、現場の悩みとしてくり返し報告されてきました(参考:介護労働実態調査(介護労働安定センター))。新規受入の場面は、その悩みがいっぺんに集中するポイントです。
情報がごちゃごちゃする3つの根本原因は何か?

結論:原因は「申送りノートが3冊以上に分かれている」「同じ情報を二重に書いている」「時系列だけで情報を積み上げている」の3つです。道具の問題ではなく、情報のしまい方が現場に合っていないだけです。
例えるなら、家のキッチンで、しょうゆが3本の場所に分かれて置かれているような状態です。料理を作るたびに、どこに何があるかを確認しないといけない。毎日の作業を遅らせるのは、足りない道具ではなく、ばらけた配置です。
もう少しだけ具体的に、3つの原因を見ていきます。
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1申し送りノートが3冊以上に分かれている:看護師さんに伝えるノート、家族と話すときのメモ、施設長への報告書。それぞれ別の場所にあるので、同じ入居者さんの情報を3冊めくらないと全体が見えません。
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2同じ情報を二重・三重に書いている:家族の電話番号や、緊急連絡先。Excelにも入っているし、紙にも書いてあるし、職員の手帳にも書いてある。どれが最新か、現場では分かりにくいです。
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3時系列だけで情報を積み上げている:日付順に申し送りが書かれていくと、新しい情報は見えますが、「この方の薬は何だったか」を後から探すのが大変です。日記のような形だけだと、振り返りに弱いんです。
外部の経営調査でも、この「業務効率化」は介護事業者の経営課題として何年も上位に並んでいます。福祉医療機構(WAM)の経営分析参考指標を見ると、人件費と業務効率の関係が、施設経営に大きく影響することが分かります(参考:WAM 経営分析参考指標(福祉医療機構))。情報の整理は、経営の話と直結します。
情報管理を整理する3つの軸とは?(仕掛け①と②)

結論:情報は「時系列」「属性」「重要度」の3つの軸で並べ直すと、ぐっと探しやすくなります。3つの引き出しを用意して、入ってくる情報を分けて入れる、というイメージです。これが、冒頭でお伝えした「仕掛け①と②」にあたります。
家の冷蔵庫を思い浮かべてください。野菜室、肉や魚の棚、調味料コーナー。入れる場所が決まっているから、料理のとき迷いません。介護の情報管理も、同じです。3つの場所を作って、入ってきた情報を「これはどの場所?」と仕分けるだけで、見つけやすさが変わります。
3つの軸を、それぞれもう少し説明します。
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1時系列軸:いつのこと、を並べる場所です。日々の申し送り、訪問の記録、検温など、日付に紐づく情報を入れます。日記のような形でかまいません。
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2属性軸:誰の何のこと、を並べる場所です。入居者さんごとの薬、家族の連絡先、好きな食べもの、苦手なこと。一度書いたら長く使う情報を、入居者単位で1か所にまとめます。
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3重要度軸:今すぐ必要なこと、を並べる場所です。アレルギー、命にかかわる持病、ご家族から「絶対に守ってほしい」と言われた約束。これは時系列にも属性にも入れず、目立つ場所に別で書きます。
この3軸の考え方は、属人化を防ぐときの基本でもあります。詳しくは属人化を解消する方法でも整理しているので、よかったら覗いてみてください。
Excel→SaaS 段階移行はどう進めるか?(仕掛け③)

結論:移行は「紙→Excel→共有Excel→クラウド介護ソフト」の4段階で進めます。いきなりクラウドに飛ばすと、現場が使いこなせず、結局Excelに戻る現場を、私は何度も見てきました。これが「仕掛け③」です。
引っ越しに例えるなら、こうです。今までの家から、いきなり新しい家に荷物を全部運び込もうとすると、どこに何があるか分からなくなる。いったん仮置きの倉庫を経由してから、新しい家に運ぶ。Excelは、その「仮置き倉庫」の役割を果たしてくれます。
4段階のそれぞれを、もう少し具体的に書きます。
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1紙→Excel(個人版):まずは紙の申し送りやメモを、1人で使う Excel に移します。誰でもいいので、まず1人が試しに使ってみる段階です。職員さん全員に強制しなくてかまいません。
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2Excel(個人版)→共有Excel:使えそうだと分かったら、Excelをみんなで見られる場所(Google ドライブや、施設の共有フォルダ)に置きます。入力ルールを2〜3行だけ決めて、入力する人を1〜2人に絞ります。
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3共有Excel→クラウド介護ソフト:共有Excelで「どの情報が、どこに、どんな形で必要か」が見えてきたら、ようやく介護ソフトの検討段階です。仕様が見えていない状態で介護ソフトを契約すると、現場が「結局Excelの方が早い」となります。
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4クラウド介護ソフトの本格運用:共有Excelで決めた入力ルールと、介護ソフトの機能を一つずつすり合わせ、職員さんの研修も含めて、半年ほどかけて完全移行します。
このExcel→クラウドへの段階移行の話は、別の記事でも詳しく書きました。介護ソフト、まだエクセルで粘れる?では、「Excelでまだ十分な施設」と「移行を急ぐべき施設」の見極めを、現場で見てきた基準で整理しています。新規受入だけでなく、施設全体の業務をどうするかを判断したいときに、あわせて読んでみてください。
3ヶ月の実装プランの中身は?

結論:最初の2週間で「情報を3軸に並べ直す」、次の4週間で「Excel化と入力ルールづくり」、最後の6週間で「クラウド介護ソフトに移すかExcelで続けるかを判断」、という3ヶ月プランがおすすめです。
家のリフォームと同じで、いきなり工事を始めるのではなく、まず「何をどう変えたいか」を決める段階が大事です。最初の2週間に、情報の整理に時間を使うかどうかで、後の2ヶ月半が大きく変わります。
3ヶ月のロードマップを、私が支援するときの形でまとめます。
| 期間 | やること | 関わる人 |
|---|---|---|
| Week 1〜2 | 申し送り・紙・メモを、3軸(時系列/属性/重要度)で並べ直す | 管理者+外部支援者 |
| Week 3〜6 | 3軸の情報を、Excelに移す。入力ルールを2〜3行だけ決める | 管理者+現場リーダー1名 |
| Week 7〜12 | 共有Excelを2〜4週間試した結果から、介護ソフト導入かExcel継続かを判断 | 管理者+施設長+(必要なら外部支援者) |
新規受入の仕組み化を相談したいとき
「自分の施設に合うのは、Excelの整え方なのか、クラウド介護ソフトの導入なのか」を、無料で相談したい場合、複数の開発会社に同じ条件で見積もりを取るのが安全です。1社だけに相談すると、その会社の得意な領域に話が引っ張られやすくなります。発注ナビなら、要件を伝えるだけで条件に合う会社を、無料で紹介してもらえます。
費用面の不安があるなら、介護施設向けの補助金を使える可能性も検討してみてください。中小企業庁の『IT導入補助金』や、厚生労働省の『介護テクノロジー利用促進』では、介護事業者向けにも活用例があります(参考:中小企業庁 IT導入補助金 公式サイト / 厚生労働省 介護テクノロジーの利用促進)。詳しくは介護施設のICT補助金 完全活用ガイドで整理しています。
業務改善コンサルが見た「外部の手」を借りる効果は?(仕掛け④)
結論:3ヶ月だけ外部の手を借りるのが、結果的にいちばん安上がりです。社内の職員さんに「業務改善も担当して」と頼むと、本業のシフトが回らなくなって、たいてい止まります。これが、4つ目の「仕掛け④」です。
料理に例えると分かりやすいかもしれません。自宅で毎日ご飯を作っている人に「お店も開いて」とお願いするのは、無理がある。それと同じで、シフトに入っている職員さんに「業務改善も並行で」と頼むと、両方が中途半端になります。
外部に頼むときの目安として、私が支援する立場から見たコスト感を、参考までに書きます。
外部支援の費用感(あくまで目安): 3ヶ月の業務改善支援の相場は、施設の規模や支援範囲で大きく変わります。社内で「業務改善担当」を新しく1人雇うのとくらべて、3ヶ月の外部支援は、人件費の3〜4ヶ月分くらいに収まる場合が多いです。正確な見積もりは、複数社で比較してから判断するのが安全です。
この記事はどんな施設に向いている?向いていない?
結論:新規入居者が月に複数重なる、小〜中規模の介護施設・障害福祉施設の管理者さんに向いています。すでに大規模なクラウドソフトの導入が決まっている法人には、別途の要件定義が必要です。
- 向いている施設
- 月に2〜4人以上の新規入居が、同時に重なることがある
- 申し送りノートや家族連絡先が、いくつもの場所に分かれて困っている
- 介護ソフトを買う前に、まずは現状の情報整理から始めたい
- Excelとクラウド介護ソフトの両方を、自分の施設に合うかで比べたい
- 向いていない施設
- 導入する介護ソフトが、すでに決まっている
- 新規受入が年に1〜2件と少なく、申し送りでも回せている
- 大規模法人で、本部主導の標準化プロジェクトが進んでいる
よくある質問
Q1:新規入居が重なる月、どの情報を最初に整理すべきですか?
最初は「重要度軸」、つまり「アレルギー」「命にかかわる持病」「家族からの絶対に守ってほしい約束」を、1か所にまとめます。これだけで誤薬や事故の確率が下がります。時系列の申し送りや、家族の連絡先など、長く使う情報の整理は、その後で構いません。
Q2:申し送りノートを Excel 化するときの注意点は?
「ノート1冊→Excel1ファイル」と単純に置き換えないことです。3軸(時系列/属性/重要度)に分けて、別のシートにします。最初は1人だけが使う「個人版」から始め、使えそうだと分かったら、入力ルールを2〜3行決めて、共有版に広げるのが安全です。
Q3:クラウド介護ソフトに移行するタイミングはいつがいいですか?
共有Excelで「どの情報が、どこに、どんな形で必要か」が見えてきたタイミングです。情報の中身が見えていない状態でソフトを契約すると、現場が「結局Excelのほうが早い」となりがちです。Excel→クラウドの段階移行は、介護ソフト、まだエクセルで粘れる?で詳しく整理しています。
Q4:誤薬や連絡漏れを防ぐ仕組みづくりに、補助金は使えますか?
年度や対象ツールによりますが、中小企業庁の『IT導入補助金』や、厚生労働省の『介護テクノロジー利用促進』に、介護事業者向けの活用例があります。対象になるかは、公式情報と所管窓口で必ず確認してください。詳しくは介護施設のICT補助金 完全活用ガイドを参考にしてみてください。
Q5:業務改善コンサルに3ヶ月だけ外注するのと、社内で1人雇うのとでは、どちらが安いですか?
規模によりますが、3ヶ月の外部支援は、社内で1人新しく雇って業務改善を任せる場合の、人件費3〜4ヶ月分くらいに収まることが多いです。正確な金額は、複数の支援会社や開発会社で見積もりを取って比較してから判断してください。
まとめ:新規受入の「ごちゃごちゃ」は、仕組みで防げる
結論:複数の新規受入が同時に走るときに起きる「ごちゃごちゃ」は、職員さんの責任ではなく、情報のしまい方の問題です。3つの軸で並べ直し、紙→Excel→クラウドの順番でゆっくり移せば、現場の負担を増やさずに仕組み化できます。
動き出すなら、私からの一番のおすすめは、「最初の2週間で重要度軸だけ1枚にまとめる」ことです。これだけで、誤薬・連絡漏れの不安はかなり減ります。残りの作業は、その安心感ができた後で、ゆっくり進めて大丈夫です。
そして、3ヶ月だけ外部の手を借りるのが、結果的に一番ラクで安い進め方です。社内のシフトを止めずに、仕組みを置いていってもらう。私が支援するときの目安として、参考にしてみてください。
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著者情報
スガヤン(外部から介護・障害福祉の業務改善を支援)
スガヤンは、中小企業と介護・障害福祉領域の業務改善を支援してきました。介護ソフトの開発会社ではなく、外部の立場で、現場に合わせた Excel/VBA の実装と業務改善を手がけています。本記事で実体験として扱ったのは、複数並行の新規受入が起きる現場で、申し送りやシフト・連絡情報を3軸に並べ直し、Excelで仕組み化したところまでです。固有名詞・個人情報は匿名化しています。
最終更新:2026-06-10