この記事の結論
- 障害福祉ソフト(就労支援向け)は、国保連への請求・日々の記録・個別支援計画・工賃計算などを、まとめて1つで扱うためのソフトです。
- ただ、ソフトを比べる前にやることがあります。それは自分の事業所が「今まで通り」やってきた仕事を棚卸しすること。ここを飛ばすと、せっかく入れたソフトが「今まで通りにできない」で使われなくなります。
- 私は外部から就労支援の現場を手伝ってきて、Excelで丁寧に作り込んだやり方が、“詳しい人”が辞めた途端に回らなくなる現場を何度も見てきました。
- 結論はシンプルです。標準的な運用ならクラウドの標準ソフトで一気に楽になります。でも独自のやり方が強い事業所は、いきなり全部を入れ替えない。 まず棚卸しをして、「何が必須か」を決めてから選ぶ。この順番だけで、失敗はかなり減ります。

この記事では、まず「障害福祉ソフトでできること」を整理し、次に私が現場で見た「導入が失敗する理由」、そして「比べる前にやる棚卸し」、最後に主要ソフトの選び方と補助金まで、順番に書いていきます。

障害福祉ソフトとは?就労支援(A型・B型・移行)で何ができる?

結論:障害福祉ソフトは「国保連への請求」と「日々の記録」を1本でつなぐ道具です。 就労支援なら、これに加えて個別支援計画や工賃の計算まで対応するものが多いです。
障害福祉サービスを運営すると、毎月の売上のほとんどは国保連(国民健康保険団体連合会)への請求で決まります。国保連とは、かんたんに言うと「介護や障害福祉の報酬を、国の制度に沿ってまとめて支払う窓口」のこと。ここへ毎月、サービスの実績データを正しい形で送る(伝送する)必要があります。
就労支援(就労継続支援A型・B型・就労移行支援)の事業所が、ソフトに任せられる主な仕事はこのあたりです。
- 国保連請求:利用実績を入力すると、請求データを自動で作って国保連に送れる
- サービス提供記録:日々の支援記録、出欠、送迎の記録
- 個別支援計画:計画書の作成・更新の管理
- 工賃・給与の計算:作業時間を集計して、利用者さんへの工賃計算につなげる
- 利用者請求:食事代など、利用者さん本人への請求書・領収書の発行
公式情報を見ると、たとえば就労・通所系に強い「knowbe(ノウビー)」は、入力した実績をもとに国保連請求のデータをワンクリックで作成でき、過誤返戻(請求の間違いで差し戻されること)を防ぐアラート機能や、工賃・給与に必要な作業時間の自動集計まで持っています(knowbe 公式・機能詳細)。
ちなみに「介護ソフト」と「障害福祉ソフト」は、制度が違うので別物です。ただ、介護と障害福祉の両方を1本で扱えるソフト(介舟ファミリーやカイポケなど)もあります。介護ソフト全般の選び方は、別記事の介護ソフトの料金比較にまとめています。
なぜ現場でソフト導入は失敗する?

結論:ソフトが悪いからではありません。「今まで通り」を支えていたExcelの独自運用が、ソフトの標準のやり方と噛み合わないからです。
ここからは、私が外部から支援してきた就労支援の現場で、実際に見てきた話です。
ある事業所では、長いあいだExcelの関数で作り込んだ独自ツールで仕事を回していました。シフト作成、検食簿(提供する食事を事前にチェックして残す記録)、食事数の管理、作業の工数管理……。どれも、その事業所のやり方にぴったり合うように、丁寧に作られていました。現場のスタッフにとっては、これが「いちばん使いやすい今まで通り」だったわけです。
ところが、ある日それが崩れます。そのExcelを作って育ててきた“詳しい人”が辞めたのです。
- 制度の改正があっても、誰も関数を直せない
- 事業所の組織が変わっても、シートを作り替えられない
- 「触ると壊れそうで怖い」から、誰も手を出せない

これが属人化(その人にしかできない状態)です。詳しい人がいるうちは、むしろ快適に回っていた。だからこそ、いなくなった瞬間に止まる。属人化のいちばん怖いところは、調子がいいときには問題が見えないことです(属人化そのものの解消法は属人化とは?解消する5つのステップにまとめています)。
そこで「これを機に、ちゃんとしたソフトを入れよう」となりました。ここまでは、よくある自然な流れです。
ところが、導入を進めると、今度は別の壁にぶつかりました。事業所独自のやり方を、Excelの融通で実現していた部分が、ソフトの標準機能では「今まで通り」にできないのです。
- 出力する帳票を、スタッフが見やすいようにわざと大きな文字で表示していた → 標準ソフトのレイアウトでは再現できない
- 細かい独自の集計や並べ替え → ソフトの決まった形に合わせるしかない
- 「この作業はこの順番で」という現場の慣れ → 画面の流れが違って戸惑う
一つひとつは小さな違いです。でも、現場の人にとっては「前の方が早かった」「使いにくくなった」が積み重なる。結果、ソフトはあるのに、こっそりExcelに戻る——よくある逆戻りです。
ちなみにその事業所では、最終的にExcelの一部をVBA(Excelを自動で動かす仕組み)やGoogleフォームで作り直す道を選びました。市販ソフトに全部寄せるのではなく、「請求は標準ソフト、現場の独自部分は作り直す」と役割を分けたわけです。これも一つの正解です(Excelの自動化でつまずいたときはExcelマクロが動かないときの対処法も参考にしてください)。
ソフトを比べる前に何をすべき?

結論:自分の事業所の仕事を「入力・編集・出力」の3つに分けて棚卸しし、“今まで通り”のうち本当に必須なものを決めることです。
ソフトを比べると、どうしても「機能が多い方がよさそう」「安い方がよさそう」と、ソフト側の都合で選んでしまいます。でも、本当に見るべきは自分の事業所が何を必須にしているかです。順番が逆なんです。
私が現場でおすすめしている棚卸しは、仕事を次の3つに分けて書き出すやり方です。
- 入力:誰が、何を、いつ入れているか(出欠、送迎、支援記録、作業時間など)
- 編集:入れたデータを、どう加工しているか(集計、並べ替え、計算)
- 出力:最終的に何を出しているか(国保連請求データ、帳票、工賃計算、保護者・利用者への書類)
この3つに分けると、「ソフトに任せられる部分」と「自分たちのこだわりの部分」がはっきり分かれます。
そのうえで、出力された“今まで通り”を3色に仕分けします。
- 赤(必須):これが変わると現場が回らない・制度上必要(例:国保連請求の正しさ)
- 黄(できれば):あると便利だが、なくても工夫できる(例:文字を大きく表示)
- 緑(手放せる):実は惰性で続けていただけ(例:誰も見ていない集計表)
赤はソフト選びの絶対条件、黄は妥協できる範囲、緑はこの機会にやめる。この仕分けをやっておくと、ソフトの営業トークに振り回されません。
この棚卸しを30分でもやってからソフトを見ると、比較表の見え方がまったく変わります。「機能が多いソフト」ではなく、「自分の赤を満たすソフト」を選べるようになるからです。
就労支援のソフト、どう選ぶ?

結論:「料金・対応サービス・導入のしやすさ・サポート」の4つで見て、自分の事業所のタイプに合うものを選びます。 一番高機能なソフトが、自分にとっての正解とは限りません。
ここでは、就労支援(A型・B型・移行)に対応する主なソフトを、各社の公式情報・公開情報をもとに中立に整理します。料金は非公開(問い合わせ)のものも多いので、その場合は正直に「要問い合わせ」と記載します。選び方の軸(次に挙げる4つのポイント)と、自分の事業所のタイプに当てはめて読んでください。
主要ソフトの比較(公式情報ベース・2026年6月時点)
| ソフト | 運営 | 対応サービス | 料金 | 特徴 |
|---|---|---|---|---|
| knowbe(ノウビー) | 株式会社ノウビー | 就労・通所・入所・訪問・相談 など幅広く | 非公開(要問い合わせ・初期/サポート/改修費は不要とされる) | 障害福祉に特化。国保連請求をワンクリック+過誤アラート、工賃・給与の作業時間を自動集計 |
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| かんたん請求ソフト(LITALICO) | 株式会社LITALICO | 就労A・B/移行/共同生活援助/児発/放デイ など全サービス | 月10,980円〜(税抜・就労支援等の障害福祉サービス事業/事業所番号ごと。最安は地域生活支援の5,480円) | 請求に特化。実績を入力するだけで全帳票。インストール不要 |
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| 介舟ファミリー | 株式会社日本コンピュータコンサルタント | 介護+障害福祉の両方(就労A・B/生活介護/相談 など) | 定額制(営業所ごと・サービス数で変動・公式/問い合わせ) | 介護と障害福祉を1本で。PC台数・利用者数の上限なし、法改正の追加料金なし。導入時の初回サポートあり(操作説明など) |
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| カイポケ | 株式会社エス・エム・エス | 介護+障害福祉の両方 | 公式/問い合わせ | 介護と障害福祉を1本で。記録と請求データが連動し、求人・会計連携など経営全体を支援。導入時の移行サポートあり(詳細は要問い合わせ) |
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| わかるくん(フリー版) | NPO法人生活支援センター207 | 就労継続支援B型/就労移行/児発/放デイ(重心中心) | 無料(フリー版) | 小規模・重度向けを応援する無料ソフト。難しい簡易入力なしで国保連伝送、電話サポートあり |
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※料金・対応は各公式サイトの2026年6月時点の情報です。最新は必ず公式でご確認ください。出典:knowbe/LITALICO かんたん請求ソフト(料金)/介舟ファミリー(料金)/カイポケ(機能)/わかるくん。
4つの見るポイント
選ぶときは、次の順番で見ると迷いません。
- 対応サービス:自分の事業種別(A型・B型・移行)に、ちゃんと対応しているか
- 料金:月額だけでなく、初期費用・サポート費・法改正対応の追加費用も含めて見る
- 導入のしやすさ:今のExcelやデータからの移行を手伝ってくれるか(移行代行があると安心)
- サポート:困ったときに電話で聞けるか。初回の請求に立ち会ってくれるか
あなたの事業所はどのタイプ?(タイプ別ガイド)
棚卸しの結果と照らして、ざっくり次のように考えると選びやすいです。
| あなたの事業所のタイプ | 向いている方向 |
|---|---|
| 独自運用が強い・“今まで通り”の赤が多い | いきなり全置換しない。請求は標準ソフト+現場の独自部分は作り直す役割分担。移行代行・サポートが手厚いソフトを軸に |
| 標準的な運用・特殊なこだわりが少ない | クラウドの標準ソフトで一気に効率化。記録〜請求が一気通貫のもの(knowbe等)が相性良 |
| 小規模・コスト最優先 | まずは請求特化のソフト(かんたん請求など)や、対象が合えば無料のわかるくんから |
| 介護と障害福祉を両方やっている | 1本で両制度に対応できるもの(介舟ファミリー/カイポケ) |
大事なのは、「いちばん人気」や「いちばん高機能」で選ばないこと。棚卸しで出した自分の赤(必須)を満たす中で、料金とサポートのバランスがいいものを選ぶ。これが、現場が逆戻りしない選び方です。
導入費用は補助金で下げられる?

結論:ソフトの導入は、IT導入補助金などの対象になることがあります。 タイミングと条件が合えば、初期費用や月額の一部を抑えられます。
障害福祉ソフトのようなクラウド型の業務ソフトは、IT導入補助金(中小企業・小規模事業者がITツールを導入するときの国の補助金)の対象になるケースがあります。補助の枠や条件は年度で変わるため、申請を考えるなら必ず最新の公募要領を確認してください。
補助金は「申請の順番」を間違えると受け取れません。たとえば「先に契約・支払いをしてしまうと対象外」というルールがよくあります。ソフトを選ぶのと同時に、補助金の窓口・スケジュールも一緒に確認しておくのが安全です。
介護・福祉まわりの補助金の考え方や、申請でつまずきやすいポイントは、別記事にまとめています。
よくある質問(FAQ)
ソフトを乗り換えると、国保連請求は止まりませんか?
いったん止めないための手順を踏めば大丈夫です。 ポイントは「請求月をまたいで切り替えない」こと。月の請求が終わったタイミングで切り替え、1〜2か月は新旧を並行して確認すると安全です。ソフトによっては、専属スタッフがデータ移行を代行してくれるところもあります。乗り換え実務の詳しい流れは、介護ソフトの比較記事の乗り換えの章も参考になります。
Excelからソフトへ、データはそのまま移せますか?
そのまま全部は移せないことが多いです。 利用者の基本情報などは移行できることがありますが、Excelで独自に作り込んだ集計や帳票は、ソフトの標準の形に合わせ直すのが基本です。だからこそ、移す前の「棚卸し」で、何を残し何を手放すかを決めておくことが大事になります。
無料の障害福祉ソフトはありますか?
あります。 たとえば「わかるくん」のフリー版は、就労継続支援B型・就労移行・児童発達支援などに対応し、無料で使えます(対象は小規模・重度向け中心)。ただし無料ソフトは対応サービスや機能に範囲があるので、自分の事業種別が対象か、必要な機能が足りるかを確認してから使ってください。
“詳しい人”が辞めても困らないようにするには?
仕事を「人」ではなく「仕組み」に移すことです。 Excelの独自ツールに頼っているなら、まずは手順を言葉にして、入力・編集・出力に分ける。そのうえで、請求のような定型業務は標準ソフトに寄せ、属人化していた部分から先に手放していきます。考え方は属人化とは?解消する5つのステップにまとめています。
結局、どれを選べばいいですか?
「自分の赤(必須)を満たす中で、料金とサポートのバランスがいいもの」です。 独自運用が強いなら移行サポートが手厚いもの、標準運用なら記録〜請求が一気通貫のもの、小規模ならまず低価格・無料から。一番人気で選ばないのがコツです。
向いている事業所・向いていない事業所
この記事の考え方(棚卸ししてから選ぶ)が向いているのは:
- Excelの独自運用が長く、“詳しい人”に頼ってきた事業所
- 過去にソフトを入れて「使いにくい」と戻った経験がある事業所
- これから組織や担当者が変わる予定がある事業所

逆に、あまり気にしなくていいのは:
- まだ立ち上げ直後で、独自のやり方が固まっていない事業所(最初から標準ソフトに合わせる方が早い)
- すでに標準的な運用で、特別なこだわりがない事業所
どちらにしても、「ソフトを比べる前に、自分の仕事を棚卸しする」——この順番だけは変わりません。
まとめ:ソフト選びは「順番」で決まる
最後にもう一度、順番を整理します。
- 自分の事業所の仕事を入力・編集・出力で棚卸しする
- “今まで通り”を赤(必須)・黄(できれば)・緑(手放す)で仕分ける
- 赤を満たすソフトを、料金・対応サービス・導入のしやすさ・サポートで選ぶ
- 独自運用が強いなら、請求は標準ソフト+現場の独自部分は作り直す役割分担も検討
- 使える補助金があれば、正しい順番で活用する
“詳しい人”が辞めても回る仕組みは、ソフトを買えば手に入るものではありません。自分たちの仕事を棚卸しして、人から仕組みへ移していくこと。その過程で、ソフトは強い味方になります。

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